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[webデザイン]独学デザイナーでも自信を持ってフォントを選ぶための6つのアドバイス

この記事は約16分ぐらいで読めます

道具への愛着が生む美しさ
フォント選びってすごく難しいですよね!この記事では独学デザイナーが陥ってしまうのではないかと思う疑問に答える形で、フォントの選び方に重要な考え方を解説します。

書体デザイナーと話し、長年の疑問を全て解消してきました

先日、[クリエイター]英Monotype社の書体デザイナー大曲都市さんに会いにいってきましたという記事を書きました。このときはたまたま英Monotype社の書体デザイナーの大曲都市さん(@Tosche_J)としっかりと話をする機会を得たわけですが、そこで私がフォントについて「こうだと思っているけど実際どうなのか」という質問をたくさんぶつけてきました。

私としてはすごく納得がいき、フォントというモノに対する認識がはっきりしました。なので今回はその都市さんから聞いた話を踏まえた上で私の現時点でのフォントについての考え方の着地を6つのアドバイスとして書いてみます

特に独学でデザインの勉強をしてきた人は「こういうものだと思うんだけど、皆は実際どう考えているんだろう」という悩みを抱えているはずだと思うので、それに対する答えを出したいと思います。

フォントの選び方1 ― その文字の役割を考える

まず、その文字を使った文章が何のために使われるのかを考えます。それによってフォントを選ぶ根拠がある程度定まります。

サイン、広告、作品、文章

あなたの置く文字が依頼者、利用者にとってどのように役に立つのかを考えます。

公共機関に使われる文字は特に見やすい必要がある

公共機関に使われる文字は特に見やすい必要がある

サイン(標識)はそれを見るあらゆる人にそれが何かを理解させる為のものです。広告はそれを目にする人に文字で表した品物や体験が欲しいと思ってもらえるように、作品は作者のテーマや想いがより伝わるように。文章は読み疲れないように、集中して読んでもらえるように。先週こうしたことについては[web制作]webコンテンツの可読性を左右しそうな要素を思いつくだけ書き出したという記事を書きましたね。

ユニバーサルデザイン

中でもサインに使われる場合は、目にした誰もがわかりやすいという事を主眼に置いていますから使われるフォントもかなり絞られます。他の用途よりも読み易いこと、機能性を中心に選びます。また、対象年齢や利用者の国籍によって、漢字の利用の度合い、言語自体の選択肢も増えますね。

そうした言語の違いや身体的な特徴などによらず、誰もが利用することが出来るような設計のことをユニバーサルデザインといい、その考えに基づいて作られたユニバーサルデザインフォントというものもあります。

フォントの持つ個性

フォントが持つ個性を押しだすことで、文章や広告、作品にある程度の印象を与えることが出来ます。

読みづらくても印象重視の場合もある

読みづらくても印象重視の場合もある

機能性と装飾性が天びんにかけられることもありますが、これも利用シーンでどちらをどの程度重視するべきかは決まります。

運用される環境

品質の悪い紙に印刷される場合、雨ざらしのものに印刷される場合等は滲んで潰れてしまう事が考えられます。

設置される場所や印刷される材質も考慮にいれる必要がある

設置される場所や印刷される材質も考慮にいれる必要がある

こうした時は文字のアキやカーニング、ウェイト等を気にするべきですね。大きな看板等に使われるのであれば、思いっきり文字の主張の大きいものが使えますね!

フォントの選び方2 ― フォントは見た目で選んでOK

文字が持つ背景等が論じられることがありますが、こういう文字は使っちゃいけないというような決まりは特にありません。似合っていれば使いたいように使ってOKです。

フォントの持つ見た目の特徴

文字が持つ基本的な印象

文字が持つ基本的な印象

私は明朝体やセリフ体にはお堅いフォーマルなイメージ、ゴシック体やサンセリフ体はオフィスカジュアル的なイメージを持っています。スクリプト体や伝統書体は更に格式ばったもの、ディスプレイ書体はある程度の遊びが利くカジュアルな用途といったように、フォントは形自体がある程度の雰囲気を備えています。

理屈より印象を優先してもいい

イタリア料理のメニューならイタリア産のフォントを、というようなイメージは確かにあり、実際にマッチするものも多いです。では伝統的な料理を出す店は伝統的なフォントを使わねばならないかというとそうでもないかと思います。

国籍を問わず自由に選ばれるフォント

国籍を問わず自由に選ばれるフォント

もちろん、我々も純和風の古風なお店には漢字やひらがなが似合うと思っていますよね。しかし和食の店全てがロゴを日本語にする必要もないと思いますし、そこはお店の雰囲気にあっていれば、となるはずです。私の好きなフォント、Copperprate Gothicはアメリカ産のフォントですが、イタリアンの店でもよく使われています。

こうした話を取り扱った記事はwebや書籍でもよく目にすることが出来、特に書体デザイナーである小林章さんが私にとってのバイブルフォントのふしぎで語っています。

フォントのふしぎ  ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?
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フォントの選び方3 ― 使用可能性も重要なファクターの一つ

似通った印象を持ったフォントがたくさん出回っていますが、それらのフォントそれぞれ全てにまで細かく役割があるわけでも、優劣があるわけでもなかったりします。目的を果たすフォントを持っているのなら、無理に違うフォントを探す必要はないのです。

つまり、手に入る、安いということは十分そのフォントを使う理由になり得るという事です。

フォントは知らないと使えない

まず、世の中にフォントはすごくたくさんあるので、例えば同じGaramondでもadobe garamond pro、ITC Garamond、Stempel Garamond等多種多様なバリエーションがあるんですけど。これら一つ一つを知っていることって普通そうないですよね。

その種類全てがデザイン上の必要性から生まれたものというわけではない

その種類全てがデザイン上の必要性から生まれたものというわけではない

そのバリエーションはリリースしたベンダーの違いに過ぎなかったり、ちょっとしたバージョンの違いであったり、普通にデザインをする上で困るほどの差はないことも少なくありません。Garamondは、Garamondです。

フォントは入手出来ないと使えない

そしてリリースの形によってフォントの入手難易度も違ったりします。特定のソフトにしかバンドルされていなかったり、他のフォントより異常に値段が高かったり。フォントが手に入るか入らないかは、流通やベンダーの都合である場合も多く、デザイン性の差異や優劣が原因ではなかったりするわけです。

似た用途を持つフォントを持っているのなら、手に入れにくいフォントを無理に手に入れる必要もないと思います。

これ1本で様々なシーンに対応出来る欧文フォント集「改訂6版 TrueTypeフォント パーフェクトコレクション」の収録フォント・利用条件解説で紹介したこの本には沢山の有名フォントの代替書体が入っていますが、これらを使ってもその元のフォントで実現したいことは遜色なく実現出来ます。

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フォントの選び方4 ― 適当に選ぶとそれが完成度に表れる

しかし、では高いフォントをお金を出して買う必要がないかと言えばそうではありません。高いフォントはやはり手間暇がかかっていて、カーニング情報やリガチャー、バリエーション、細かい部分での完成度、約物や他言語用文字が揃っている等のプロフェッショナルな要素を持っています。

人は原因がはっきりとはわからなくても違いを認識出来る

常にフリーフォント、OSのバンドルフォントで済ませていると、たまに使ってみた高額なフォントの品質に驚きます。値段で決めつけることは出来ないのですが…有料のものはフリーに比べてそうした品質が整っていることが多いです。前述のような完成度を持ったフォントをフリーで配布するというのは、なかなか出来ないものです。

特にカーニング情報は良く出来たフォントほど細かく設定されていて、これがあると適当に組んでもいい感じに仕上がってきます。まあ微調整は必要だったりするんですけど、それでもしっかり作られたフォントはほぼ完ぺきに組めます。

文字詰めに詳しくなくてもぱっと見違和感を持つ

文字詰めに詳しくなくてもぱっと見違和感を持つ

で、そんな細かいところを普通の人がわかるかという話なんですけど、普段からプロが作ったプロの制作物(テレビや大量生産の刊行物等)に囲まれて暮らしていると、良くないデザインに対して普通の人もどこが悪いとは言えなくても、素人臭さのようなものは感じられてしまう訳です。そこまで考えると、プロフェッショナルなフォントを使えば文字詰めが苦手でもそれなりに仕上がるというのは大きいですよね。

私は元々そんなに文字やタイポグラフィーが得意ではありません。頑張って詰めたものでもわかる人からださださだったりするのでこの辺は頼りたいところですね…><

定番フォントの強さ

慣れというものは面白いもので、例えば日ごろHelveticaばかり見て生活していることで人はHelveticaというフォントを知らなくても、それが使われた制作物にちゃんとした感を感じたりもするわけです。

Helvetica系のフォントで書いただけでそれらしく見える

Helvetica系のフォントで書いただけでそれらしく見える

フォントを選ぶ理由に、「その用途に一般に広く使われているから」という理由があり得るわけです。

ちなみに最近書いた[レビュー]TYPOGRAPHY03 全デザイナー必見のフォントリストをチェックしようの記事で紹介したTYPOGRAPHY03はそうした定番のフォントを紹介した見応えのある特集が載ってますからチェックすることをオススメします!

フォントの選び方5 ― 利きフォントは出来なくてもいい

フォントをたくさん知っていると引き出しは多くなります。その時その時に合ったフォントを見つけ出すのも早いかもしれませんが、いろんなフォントの細かい特徴まで把握していなければいけないわけではありません。

無数のフォントが生まれてくる理由

先ほども述べたように、多種多様なフォントが更に色々な種類に分かれるのはデザイナーのこだわりの他に、そのフォントベンダーが欲しかったから、似たフォントをラインナップに揃えたかったからというような事情があったりします。

そうしたバリーション違いを把握してなければデザインが出来ないわけではありません。

フォントが生んでいる印象の種類はそう多くない

前の章でセリフやサンセリフ等のざっくりとした印象を挙げましたけど、フォントはそれぞれの種類の中でも更に違った印象を持っています。

しかし、ではフォントの数だけ印象の種類があるとまでは私は思いません。ここは特に個人的な意見なのですが、私は誤解を恐れずに言えば…せいぜい30種類くらいのフォントを持っていれば、大抵のシーンに対応出来るのではないかと考えています。これについては別途記事を書きます。

実際にはデザイナーは似通った用途のフォントそれぞれの違いを感じることが出来るでしょうが、それを使い分けたところで、大多数の受け手側の印象が変わったりはしないということです。一度決まって慣れてしまったものが変更された場合には気付く人も多いでしょうけど。

デザイナーにも唸って欲しい二心

で、我々デザイナーは利用者にとって使いやすく印象の良いデザインをすることが仕事なわけですけど、同時に同業者へのアピールをしたかったりもしますよねw まあ、そうしたことを考えた結果利用者が使いにくくなっては本末転倒ですけど、こいつわかってるな感を出したければそうした配慮の範囲内で頑張ることは出来ると思います。要勉強ですね!

フォントの選び方6 ― フォントを道具と考える

フォントは形としては単なるデータですが、それを日常的に使う道具だと考えると、また違った見え方がすると思います。

フォントを日常的に使う道具の一つと考える

フォントは一つ一つが違う用途を持ち、持っている魅力も違います。フォントはデザインソフトなどで選ぶ時のインターフェイスとしてはボタン一つで変更が利くものですけど、本来は用途の違うフォント同士でありそうそうすげ替えられるものではないはずです。

通常、フォントは一つ買うのにもそれなりにお金がかかります。そうして手に入れたフォントは一つの手に馴染む道具として愛着も湧き、興味も出ようというものです。

フォントセットの功罪

皆さんはOSにバンドルされたフォント、またはフォントセットで手に入れたフォント…そのそれぞれを把握して使っていますか?フォントを選ぶ時、一つ一つを実際に置いてみてから選んでいるのではないでしょうか。実は既に何度か使っているのに、名前は覚えていなかったり。

例えば急に工作がしたくなって一本だけ購入したドライバーと友達から借りた工具セットを比べてみると、気に入って買ったフォントと、セットで買ったフォントの重みの違いがわかるんじゃないかと思います。

一つ一つの道具を知ることでデザインが拡がる

一つ一つの道具を知ることでデザインが拡がる

だから、急に新しいフォントを買わないとしても、まずはOSに入っているフォントを使い倒してみるのもいいですね。

靴を選ぶようにフォントを選ぶ

制作者にとっての仕事道具は、ある意味日用品でもあります。使っていて気持ちのいい道具を使いたいですよね。もちろん用途を無視して好きなフォントだけ使うという話ではないです。用途にあったフォント選びをする範囲内でもデザイナーの好みで選ぶことが出来るはずです。

道具への愛着が生む美しさ

道具への愛着が生む美しさ

そうしたこだわりはデザイナーの個性を生み出すこともあると思います。ルールのみに沿って作られたデザインじゃ、その人なりのデザインなんて出来ないですよね。

個人的に、このときの都市さんの言葉で「お気に入りの靴を履くようにフォントを選ぶ」という表現がすごく気に入りました。フォントを使うという行為自体が好きでないと、こういう表現は出ない気がします。

終わりに

フォント選びは楽しいです。しかし仕事で使う場合は趣味で使っているときと違い、効率も要求されたりしますよね。そんな時の為に迷わないでいいよう、こういう場合には何を使う、と決めておいてもいいと思います。

ですがそのとき、重要なのは「使うフォントが定まっていること」ではなく、「そのフォントを使う理由が定まっていること」だということです。そうすれば、その理由により合致するフォントを見つけたときはそれを選ぶことが出来ますし、そのとき「こっちのフォントの方がいいのでは?」と思った気付きが、自分にとっての新たな必然性を生むかもしれませんよね。

この文は別に有料フォントとフリーフォントのいずれかを貶めるものではありません。フォントは大きな苦労、ものによっては数年越しの時間がかけられているものもあります。私たちのようなフォントを利用するデザイナーは、こうしたことを考えて作られているフォントのデザイナーさんに感謝の気持ちを持っていたいですね★

また、この記事の内容は都市さんの話を踏まえた上で私なりの解釈をしているところも多々ありますので、そのそれぞれについて都市さん自身が同じ考えだというわけではないと思います。その点については理解頂きたく思います!